現在ペットとして飼育が可能な特定動物のワニ類。ネット上には愛らしい子ワニの動画が日々掲載されており、徐々に飼育人口も増加しています。できるなら飼育してみたいと思う方もいるでしょう。
今回は、ワニの生態と、日本でワニを健康に飼育することは可能なのか?といった疑問について考えていきます。
本記事を作成するにあたり、オーストラリア国立大学とノーザンテリトリー準州政府でクロコダイルの保護・研究をされているワニ研究者の福田雄介氏に取材協力をいただきました。
記事中の各質問には、「クロコダイル種のワニについて」という前提でお答えいただいております。
個人でワニを飼育するには、どういった問題があるのでしょうか?さっそく見ていきましょう。
ワニの飼育エリア・運動能力について
あごの力は動物で一番強く、全長5メートルを超えるイリエワニだと、噛み付いたときに数トンという力が獲物にかかります。
手足も短く見えますが、体重100キロを越える3メートルのワニが難なく金網をよじ登ってフェンスを超えてしまうくらい力が強いです。
ただ、野生本来の生態では一日に数十キロの距離を泳ぐなど、かなり活動的な面もある動物です。狭いところで飼育するのは動物福祉的にも問題があると思います。
野生のワニが多いオーストラリアのノーザンテリトリー準州には、野生生物管理局による、ペットとしてのワニの飼育ガイドラインがあります。
それによると、ワニの飼育スペースは、最低でもワニの全長の3倍以上の長さと、2倍以上の幅が必要としています。全長2メートルのワニならば、最低6mx4mのいけすや水槽が必要ということです。
さらに、イリエワニやナイルワニは熱帯の動物です。健康に成長するためには、日本の夏にしか差さないような強い日光が、年間を通してほぼ毎日必要になります。
では、大型のイリエワニやナイルワニを健康に飼育したい場合、施設の規模はどの程度になるのでしょう?
さらに日本で飼う場合は、年間を通して水温・気温ともに30度前後に保つ必要があるので、巨大な温室のような施設が必要です。
設備の乏しいワニ園や動物園では、水温だけ温かく保ち、気温は一年を通して外気に任せている所もあります。しかし、日本の冬は寒すぎるので、ワニの体に負担がかかっていると考えられます。
また、先ほど言ったとおり、日本では日光が圧倒的に足りないので、紫外線ライトなどの装置も必要になります。上記のガイドラインだと、これらの設備をそろえた施設で全長5メートルのワニを飼うには最低でも15mx10mの広さが必要です。
では、比較的ハードルの低い中型種を飼育したい場合です。一部屋をワニ部屋にするとして、ガイドラインに適合した水槽が用意できないときは、水に入れずに一生生活させることは可能なのでしょうか?
しかし、水にいれずに一生生活させることはできません。本来の生態からかけ離れた飼育をするのは、動物倫理の観点からも問題があると思います。
僕は東ティモールで、車一台分の車庫スペースか、それより狭い所で飼われているワニを何度も目撃しています。子ワニの頃から数十年間飼われていたイリエワニで、体長は4メートルを超え、身動きがほとんど取れない有様でした。狭いスペースにワニを押し込めて飼育するのは適切とは言えないでしょう。
ワニの飼育に伴う怪我について
全長数十センチの小さな子供のワニでも、歯は先が針のように鋭くとがっており、強く噛まれるとカッターで切ったようにスパッと皮膚が切れます。
またワニに噛まれると感染症になる可能性もあるので注意が必要です。
では全長1mほどの若ワニに餌と間違われ噛まれた場合、どの程度の怪我になりますか?
ワニの餌について
1メートルのワニだと一回の餌の量は200グラム程度ですが、3メートルを超すと体重も100キロを超えるので一回の餌は5キロ以上になります。
またワニは本来、多種多様の獲物を食べるので、飼育する場合は与える餌にビタミンやカルシウムなどを添加しないと健康を害します。
ワニの寿命について
ワニのしつけについて
東南アジアなどでは、飼いならされたワニの口に、自分の頭を入れる観光客向けのショーが昔からありますが、失敗してケガをする事故が毎年起きています。
たまに飼い主によくなついている巨大ワニの映像などがユーチューブに上がっていますが、これらは例外中の例外として見るべきです。
ワニを飼っている方、これから飼おうとしている方へ
ワニは本来、広大な川や沼を日常的に移動して、多種多様の獲物を狩って食べている熱帯の大型変温動物です(一部アリゲーターを除く)。そういった生息環境を日本で再現するとなると、たいへんなコストがかかります。
さらに、ワニは少なくとも数十年は生きる長寿な動物です。最後まで飼いきれる自信と覚悟がないかぎり飼うべきではありません。
ここからは、動物福祉に対する個人の主観によりますが、たとえ数十年間、最後まで飼いきれたとしても、狭く人工的な水槽の中で過ごしたそのワニの一生は本当に幸せだったと言えるでしょうか。これからワニを飼いたいと考えている方はこれらのことを熟考した上で決断を下して欲しいと思います。
まとめ 特定動物の飼育禁止へ ワニの今後
ここまでワニの飼育に当たり、超えなければならないハードルをご紹介してきました。ご意見をいただいた福田様には心から感謝申し上げます。
例え中型種であっても、ワニの飼育は非常にコストがかかり、また危険も伴うものです。相応の覚悟と、ワニの生活を保証できる資力がなければ、人間もワニも不幸になってしまいます。
また、2019年6月に、動物愛護法改正案が成立し、特定動物の家庭での飼育が禁止とする条項が追加されました。「許可さえ取れば飼育できる生き物」だったワニは「飼育許可が出ない動物」に変わります。詳細は下記の記事を参考にして下さい。
改正案を反映した新制度に移行するにはまだ時間があります。今からワニや特定動物を飼育して、最後まで面倒をみることができるのか、この機会に一度考えてみるのも良いでしょう。
この記事が、ワニ飼育・爬虫類飼育の今後を考えるきっかけとなれば幸いです。
福田氏のTwitterアカウント・ブログはこちら
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ブログ:クロコダイル研究者のブログ
ライター:いちはら まきを
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